絵と刀と旅の記録

美術館巡り好きでにわかオタの記録。

藤田嗣治展(東京都美術館)

行ってきた!×2

開催前からかなり興味を引く画家だったのだけど1回目は時間が足りず2回行くことになった。縄文展ほどではないにしろかなり混雑していて、しかもほぼ大人といういかにも文化施設感やばいみたいなw


藤田嗣治の存在自体は、戦後戦犯の疑をかけられてフランスに帰化し洗礼を受けたってことしか知らず、絵もどこかの百貨店のポスターで見ただけだったんだけどこんなにも魅力的な絵だったなんて…


初期はいかにも日本の西洋画家らしく最初の妻の絵なんかは黒田清輝の影響受けてるだろうなって素人でもわかるくらい。(もちろんうまい。そして実際には藤田の黒い陰影は黒田に悪い例として取り上げられたらしいとどっかて見たけど…)

そこからキュビズムを経て段々と彼の代表作らに近づいて行くんだけど、まず面白いなと感じたのは風景画の地面。なんかアリ地獄みたいに画面外の中央に向かって砂が吸い込まれていくようなグニャグニャした地面がなんか面白い。パリの街並みの暗い絵も初期宗教画のところにある風景画もなんか地面が面白い。こっくりと重くて濃い色にのっぺりとした画面はセザンヌを思い出す。

そして金箔に黒く墨?を重ねた地の前で踊る女性達の絵。結構最初の方なんだけどこれでグッと掴まれてしまった。当時、他国出身でフランスにいる画家の間で自国的なものを取り入れるみたいなのが流行ったらしいんだけど、女性達の同じモチーフを繰り返すような姿からしても間違いなく琳派を意識したんだろうな。でも自分的には琳派以上にクリムトとの親和性を感じてなんか興奮してしまったんだよね。クリムト琳派の影響受けてるから当たり前じゃんな話ではあるけど、藤田のそれは西洋人が琳派を取り入れたのと近い感覚。日本画家の琳派的表現とはなんか違う。

で、この後は静物画を挟みつつ(個人的に薔薇の絵がお気に入り)乳白色の裸婦像にどんどん近づいていく。細い墨に白い肌は変わらないけど、時が経つほどより滑らかで陰影が陶器のようにつるんとした白い肌にうまく溶け込んでいくから明らかな上達が感じられて楽しくなる。

そのなかで気に入ったのは銀箔の地の前に横たわる青いワンピースの女性の絵。オリエンタルな雰囲気の身なりというだけでも裸婦が続いたあとだとなんだか新鮮だし、肌の質感も化粧をしたような粉っぽさのある感じとほのかな赤みが人肌の温度を感じさせて美しい。
ここを過ぎるとガラリと雰囲気が変わって熱気に満ちた色使いに驚き。そしてここの展示が一番好みだったな。
中南米への旅行がそうさせたのか何か心境の変化があったのかわからないけど、どことなく物憂げなあるいは気怠げな雰囲気の白い肌の女性達は影を潜めて生気を帯びた現地の姿が前面に押し出されてくる。それがすごくいい!娼館の絵なんかは色もギラついて下品さすら感じるような画面の熱気が癖になる。それからラマ?アルパカ?と現地人の絵。こちらを真っ直ぐに見る女性の眼差しの強さ、人々の浅黒い肌から感じられる力強さ。こういう絵も描けるのかと驚いたものだけど、今思うと原点に戻ったような部分もあるのかも。初期の自画像の目の鋭さというか強さに通じるところがあるかもなー。
そしてこの画面から発せられる熱気・力強さがアッツ島玉砕に繋がってくるんだなあ…

という感じで最後のフロアへ。
まず目に飛び込んでくるのは、サイパン島同胞臣節を全うす。そしてすぐにアッツ島玉砕。中南米〜帰国中の力強い画風と豊かな表情はそのままなのに、色味を極限まで押さえただけでこれまでの空気とは全然違う雰囲気。戦争に批判的な画家の描くような体制批判色の強い感じや生々しさは全然なくて、敵味方無く戦った人々と紳士に向き合う姿が見て取れるようなあるいは犠牲者の鎮魂を願うような美しい絵。アッツ島玉砕の命をかけた人々の生の一瞬の激しさと、サイパン島〜の最期の祈りがちょうど動と静の対比になってお互いをより高め合うように見える。藤田嗣治の集大成と言ってもいいくらい完成されていて、もうほんとにただ見てとしか言えない。

この2つの大作のあとは春がきたようにまた鮮やかな色彩や乳白色の女性たちが戻ってくるんだけど、戦前の乳白色の女性たちに比べて表情があるというかなんとなく柔らかな雰囲気があって好き。その後はドールハウスを思わせる緻密な描きこみや人形のように無機質な子どもの姿等藤田の嗜好を反映した絵と宗教画が紹介されておしまい。中南米旅行〜戦争画の熱量を感じたあとだとややエネルギー不足に感じてしまうかな。細かな描きこみは見ていて面白いし、気楽に楽しめるのは有難くもあるけど。

今年一番は山種美術館琳派展かなーと早々に思ったけど、藤田嗣治展はそれ以上によかった。このあとの京都展示は京のかたな展と期間が被っているので、また行ってしまいそうだ。
まだまだ私の知らない素晴らしい作品があるのだなと強く感じた展覧会でした。